お盆の頃になるとテレビや新聞などのニュースで「今年も帰省ラッシュが始まりました」とか「帰省する人たちで駅のホームが混み合っています」、「故郷に帰る車の渋滞が始まりました」などという言葉を見たり聞いたりします。
みんなお休みには故郷に戻ってゆっくりと過ごしたいのですね。
でもちょっと待ってください。
そんな場合に使われる言葉は決まって「帰省」、「故郷に帰る」という言葉。
日頃私たちが「故郷に帰る」という意味で使うことがある「帰郷」や「里帰り」という言葉は使われません。
私たちにとっては、ほとんど同じ意味の言葉だと思ってしまうのですが、何故なのでしょうか。
実は、この「帰省」、「帰郷」、「里帰り」という三つの言葉には、とても大きな違いがあったのです。
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目次
「帰省」という言葉には親を思う優しい気持ちが隠れていました。
まず、ニュースなどで使われている「帰省」という言葉。
なぜ「省」という言葉が使われているのでしょう。
反省とか自省とか、「何かを省(かえり)みる」という意味で使われることが多い漢字です。
辞書で引いてみると、「注意してみる」とか「振り返って反省する」などという私たちが思っていた通りの意味が出てきます。
しかし、その後に「訪問する」、「安否を問う」、「見舞う」という言葉も出てきます。
実はこの「省」という漢字には、「訪問して安否を問う」という意味が含まれていたのですね。
つまり、「帰省」という言葉は「帰って安否を問う」ということになります。
どういうことか。
この場合「帰る」のは故郷であり、「安否を問う」のは故郷にいる両親を始めとした家族、友人などのことを意味しています。
数々あるSNSのように、オンタイムで連絡が取れたり話せたりするコミュニケーションツールなどは当然のこと、電話すらない時代では故郷にいる両親の様子を知るには、実際に故郷に帰るしか方法がなかったのです。
そんな理由で「故郷に帰って安否を問う」という意味の言葉「帰省」が生まれたというわけです。
それともうひとつ。
この「帰省」という言葉には「一時的」という意味も持たされています。
つまり、「一時的に故郷に帰って両親の安否を確認して、またもとの場所に戻る」という意味合いです。
だから、夏休みの間故郷に帰り、また戻って来るという意味合いからもニュースなどでは「帰省」という言葉を使っているというわけです。
「帰省」という言葉はとても優しい思いが隠された言葉なのですね。
では「帰郷」とは? 「帰省」と何が違うの。
「帰省」と同じような意味と思われている言葉に「帰郷」というのがあります。
こちらも「帰る」と「故郷」が合わさってできた言葉です。
「故郷に帰る」、「帰省」とほとんど同じですよね。
実際にそれで正解です。
ただ、「帰郷」には「両親や家族の安否を問う」という意味はありません。
そのまま「故郷に帰る」というストレートな意味だけです。
では、何故ニュースなどで使われないのか。
実は、この「帰郷」という言葉ですが、「帰省」には「一時的に故郷に帰る」という前提があったのに対して、「継続して故郷に留まるために帰る」という意味合いなのです。
つまり、「故郷に戻ってそこで暮らす」ということです。
Uターンですね。
「帰郷ラッシュ」という言葉が一般的に使われないのはそのためです。
最近はあまり聞かない「里帰り」という言葉にもまた特別な意味が。
最近あまり耳にすることは多くありませんが、「帰省」や「帰郷」と同じく「故郷に帰る」という意味合いとして認識されている言葉が「里帰り」。
実はこの言葉、本来は日本で伝統的に行なわれている「ミツメ」とか「ハツアルキ」といった行事がその起源。
これは婚礼の儀式が行われた後、儀式終了後、3日後、5日後などに嫁が夫を伴って実家に帰る、という行事のことを指していたものなのです。
つまり、「里帰り」というのは、本来の意味では結婚した女性だけに使われる言葉というわけです。
その後、奉公人などが実家に帰ることにも使われたり、海外から故国に人や物が戻る時にも使われるようになり、広く「故郷に帰ること」という意味で使用されるようになったようです。
そういえば、海外の美術館にある日本画が日本での展覧会のために戻ってきたり、海外の動物園から借りていた動物を元の動物園に返すときなどに「里帰り」という言葉を使いますね。
そんなふうに、「里帰り」という言葉は人だけではなく、物や動物にも使われることが多いのです。
「帰省」、「帰郷」、「里帰り」、それぞれに深い思いの意味がありました。
日頃同じような意味で使われるこの三つの言葉ですが、実はそれぞれにとても深い思いのある言葉なのです。
故郷にいる両親や家族、友人などの安否を確認するために故郷に戻る「帰省」には、両親や家族を思う「優しい心」が、故郷に戻ってそこでずっと暮らすという意味の「帰郷」には、もしかすると「挫折」や「悲しみ」といった人知れずの思いが、婚礼の後の儀式のひとつだった「里帰り」には、嫁いだ娘の両親に対する「感謝の心」が込められているのかもしれません。
こんな深い思いから生まれたそれぞれの言葉、その思いを考えつつ使い分けてみたいですね。
ちなみに、私は学生時代、休みに帰省する際には「実家に帰る」とだけ言っていましたが。
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