夏が近づくにつれて、特に多くなってくる雷。
突然のように冷たい風が吹いてきて、黒い雲が広がってきて、ピカッ! ゴロゴロ!
眩いばかりの稲妻の光と、大きな音には恐怖を感じる方も多いと思います。
で、この稲妻、なんで「稲の妻」という字が使われているのかご存知ですか?
光という字が使われていてもいいと思うのですが、農作物の「稲」と、奥さんを表す「妻」の字。
それに雷には「田」の文字。
なにか雷も稲妻もお米に関したものだったのでしょうか?
ちょっと不思議な感じがしますね。
実は、そこには農作が中心だった昔の人々の畏怖の念が込められていたのです。
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雷は神様が鳴らす太鼓なのです。
ゴロゴロバリバリー! と大きな音を立てる雷ですが、その語源はご想像通り「神鳴り」から。
昔から神様が鳴らす音とされていたのです。
「いかずち」とか「なるかみ」とも呼ばれていましたが、鎌倉時代以降に「かみなり」という呼び方が一般化したと言われています。
漢字の「雷」の「田」の字は田んぼの「田」ではなく、古代文字の「畾」が変化したもので、大きな音を出す太鼓の形が元になっているのです。
稲妻が「稲」だから、雷が「田」なんだと思っていた方も多いのではありませんか?
私もそう思っていましたが、実はまったく関係なかったのです。
ではなぜ「稲の妻」になったのか。
ただ、稲妻の「稲」に関してはそのままお米の稲を表しています。
農作が主だった昔の日本では、お米の豊作を願って様々な行事が行われてきました。
旧暦9月9日の重陽の節句しかり、十五夜のお供えしかり、盂蘭盆しかり、すべてそういった伝統行事は豊作を願い、厄災から逃れるために昔から行われてきたものです。
すべて稲穂は神様の依り代(よりしろ)という考えからです。
そんなふうに神聖なものとされていた稲ですが、雷が多い年には豊作になると言われていました。
雷が多い年は日照時間が平年よりも長く、降水量も多いということもあるそうなのですが、昔の人たちは「稲妻の光が稲に子供を作らせる」=「たくさんの実をならせる」という考えを持っていたのです。
実際、近年に稲妻の強電力が空中窒素を固定させてそれを稲が取り込むことによって窒素肥料の役目を果たし、豊作に繋がるという説が実証されているようです。
昔の人は自らの経験でそれを知っていたのですね。
その時代、稲妻は「稲光」(いなびかり)、「稲魂」(いなたま)、「稲交接」(いなつるび)などと呼ばれていましたが、そんな考えから稲妻は「稲の夫(つま)」=「稲夫」(いなづま)という名が一般的になりました。
ちなみに、聞きなれない「交接」(つるび)というのは「交尾」の意味の言葉です。
これは「稲に子供を作らせる」という考えからきたものです。
また、「妻」ではなく「夫」を用いたというのは、そもそも「つま」という言葉は夫婦などの親しい間柄の男女が相手を呼ぶ場合の呼称で、「夫」も「妻」も「つま」という読み方をしていたからなのです。
それが現代では「つま」というのは「妻」を指すので「稲妻」と書かれるようになったというわけです。
つまり、「稲妻」という言葉も豊作につながるものだったのですね。
雷のつきものと言ったら夕立です。
夏の夕方、大きな雷が鳴ると、必ずと言っていいほどやってくるのが夕立です。
突然の大雨に降られて、びしょ濡れになってしまったという経験をお持ちの方は少なくないと思います。
で、この夕立の「立」という字、どういう意味かお分りですか?
雨をイメージさせるような漢字は使われていませんね。
実は、こちらにもいくつかの説があるのです。
ひとつは、昔、雷を伴って急に降り出す大雨を「彌降り立つ雨」(いやふりたつあめ)と呼んでいて、それが「やふたつ」から「ゆうだち」という呼び方に変わっていったという説。
もうひとつが、夕方に風や雲や波が起こり立つことを「夕立つ」といい、それが「夕立」になったという説。
たしかに「風が立つ」とか「波が立つ」と言いますね。
しかし、この「夕立」もどちらが正しい語源なのかはわかっていないようです。
ちなみに、「夕立」の対語として、朝方に降る雨のことを示す「朝立」という言葉もちゃんと気象用語としてあるようです。
雷も稲妻も日本古来の考え方から生まれた言葉なのです。
神様が鳴らすと考えられていた「雷」、稲に子供を作らせる=豊作を望むことから生まれた「稲妻」の文字、雷や稲妻、それを連れてくる「夕立」にも、様々な語源な由来があったのです。
ちなみに「稲妻」という名前のお菓子をご存知ですか?
みなさんご存知の「エクレア」がそれです。
フランス語で稲妻を意味する「エクレール」の英語読みが「エイクレアー」。
それが伝わったものです。
では、こちらはなんで稲妻なのか。
これには様々な説があって、シュー生地を焼いたときにできるひびや割れ目が稲妻のようだから、というものや、上にかけられたチョコなどが光って稲妻のように見えるから、というもの、中のクリームや表面のチョコレートなどが溶け出さないうちに稲妻の光のように素早く食べなくてはいけないから、などと言われています。
雷も稲妻も夕立も、実際には怖かったり被害を出したりする嫌なものですけれど、夏の風情を感じさせてくれるものです。
私は雷や夕立が去った後の空気の感じや匂いがけっこう好きですね。
もちろんエクレアも好きですが。
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