子供時代、私が住んでいた場所は「七夕祭り」が盛大に行われることでも有名な地方の都市でした。
目抜通りには数メートルもある美しく大きな飾りが路面すれすれまで飾られ、その飾りを避けながら多くの人々が行き交う、それは綺麗で賑やかなものでした。
そんな綺麗な飾りも楽しみでしたが、たくさん出ている露店や、お祭りの華やかな雰囲気が大好きだったのを覚えています。
各家庭でも、それほどの大きな七夕飾りは飾らないものの、それぞれが笹の葉に願い事を書いた短冊を飾り、家々に飾り付けたものです。
この七夕という行事、いったいどんな由来があるのか? なぜ笹の葉に願い事を書いた短冊を飾るのか、織姫彦星の伝説とどういう関係があるのか? ちょっと気になりませんか?
笹と短冊、願い事と星の言い伝え、あまり関係なさそうなこの四つ、いったいどういう関係があるのか、ちょっと探ってみたいと思います。
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目次
まずは「たなばた」の語源となった日本古来の織り機の話から。
日本では古来より秋の豊作と厄災を避けるため「棚機津女(たなばたつめ) の神事」という行事がとり行なわれていました。
この神事は、「棚機津女」として選ばれた女性が、「棚機」(たなばた)という織り機を使って神様に捧げるための織物を織るというものでした。
それが仏教が伝来し、普及するにつれて、旧暦7月15日の盂蘭盆会(うらぼんえ=現在のお盆)を迎えるためにお盆を控えた7月7日の夜に行なわれる行事となっていったのです。
7月7日の夜、というところから「七夕」、そしてそれを「たなばた」と呼ぶようになったということです。
つまり「たなばた」の語源は「棚機」という織り機、「七夕」という文字はそれが行なわれた日時からなのです。
織物津女の神事に中国の行事や伝説が影響を与えます。
なぜ「七夕」と書いて「たなばた」と読むのかはお分かりになったと思います。
でも、機を織る神事がなぜ短冊を笹に飾る行事になったのか、あまり繋がりがないように思えます。
実は、日本の古代神事のひとつであった「棚機津女の神事」が現代の「七夕祭り」に変化していくのには様々な要素が関係してくるのです。
その変化に大きく関係してくるのが中国で古来から行われている「乞巧奠」(きこうでん)という行事です。
この「乞巧奠」というのは、星信仰から生まれたもので、裁縫の仕事を司る星である琴座のベガに「裁縫がうまくなるように」という願いを込めてお祈りや捧げ物をするというものでした。
ご存知の通り、琴座のベガというのは中国では織女星と呼ばれ、日本でいう「織姫星」のこと。
そして、ちょうどこの「乞巧奠」が行なわれる旧暦の7月7日に、天の川を挟んでベガとともに煌めきを増す星が鷲座のアルタイル(中国では牽牛星)だったのです。
日本でいう「彦星」ですね。
このアルタイルが農業を司る星、ということもあって、天空に召された二人7月7日に天の川を渡って一年に一度の逢瀬を迎える、というロマンチックな話が生まれたわけです。
つまり、星に願いを込める「乞巧奠」と「織姫彦星の話」は中国で別々に誕生したものということになります。
そんなロマンチックな話と「乞巧奠」という行事は平安時代に日本に伝わります。
それが古来から7月に行われていた「棚機津女の神事」と結びついていったというわけなのです。
日本と中国の様々な行事が融合しましたが、はて笹と短冊はいつのこと?
いよいよ「七夕」、「棚機」、「乞巧奠」、「織姫彦星」みんな繋がりましたね。
ただ、まだみんな別々の内容で、これが笹に願い事を書い短冊を飾る、という今の「七夕祭り」とは程遠いものに思えます。
現代のような七夕祭りが行なわれるようになったのは江戸時代以降と言われています。
そもそも七夕というのは、日本の五節句、「人日」(1月7日)、「上巳」(3月3日)、「端午」(5月5日)、「七夕」(7月7日)、「重陽」(9月9日)のひとつです。
読み方は「しちせき」
江戸時代にこの五節句が庶民の間に広まっていくにつれて、同じ7月7日に行なわれていた「棚機」や「乞巧奠」という行事、ロマンチックな「織姫彦星の話」が結びつき、星に供え物をして願い事をこめるといった風習が広がっていきました。
「乞巧奠」は「裁縫の上達」を願うものでしたが、それが和歌や筆、習い事の上達を願うものへと変化し、寺子屋などで字の上達を願うため短冊に書を認めたものを供えるというようになっていったのです。
それが願い事を短冊に書くという現代の七夕飾りの起源と言われています。
ただ供えるだけだったものを、昔から生命力が強く、災厄を取り込む神聖な力があるという笹に飾るようになり、七夕祭りが終わったら災厄を引き受けた笹や飾りを川などに流すような習慣にもつながっていったということです。
いくつものな神事や行事、伝説、祈りが複雑に結びついたのが七夕祭り。
このように、現代の七夕祭りというのは、古来からある日本の神事、古くから中国で行なわれていた星信仰の行事、美しい星を見て語り継がれた伝説、人の切な願いや祈りなどが複雑に結びついてできたものです。
ちなみに童謡「たなばたさま」に出てくる「五色の短冊」の5色というのは「青・赤・黄・白・黒」のこと。
中国の陰陽五行説の「木・火・土・金・水」に起源を持つものです。
なので、本来であればこの5色の短冊に願い事を書いて飾るのが本当なのでしょうね。
七夕飾りが生まれた最初の頃は、この5色の糸を笹に飾り付けた、などということもあったらしいですよ。
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