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多視点描法を多用する画家とその構図とは。一見すると気づきにくい、絵画に潜んでいる技法

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上手下手はともかく、絵を描くことを趣味にしている方は多いと思います。

休日ともなれば、絵筆にキャンバスやスケッチブック、本格派ならばイーゼルなども持って出かけることもあるでしょう。

そんな絵を描く上で最も基本となる技法が遠近法です。

その名の通り、二次元のキャンバスの上で、遠くのものは遠くにあるように近くのものは近くにあるような構図を作り、三次元的に表現する方法です。

遠近法の中にも色々ありますが、視線の方向にあるものはすべて視点の中心に向かって収束するという、最もポピュラーな一点透視図法や、立体物を表現するのによく用いられる二点透視図法、三点透視図法などが挙げられます。

また、遠くのものは空気によって霞むという視覚を利用した空気遠近法、写真などに利用される、遠くの背景をぼかした消失遠近法など、目で見た通りに二次元に落とし込むために、様々な構図やテクニックが駆使されているのです。

そんな写実的な構図を使った描法の他にも様々な描法があります。

中には一見すると何の疑問もない写実絵画のように見えて、実は不思議な構図によって描かれている絵画が存在します。

それが多視点描法という描法です。

聞きなれない専門的な言葉ですが、そこに潜んでいるテクニックや構図の秘密について解き明かしていきたいと思います。

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写生を覚えていますか?見たままを描きなさいと言われていましたね。

小学校や中学校の図工、美術の時間には必ず写生というのがあります。

果物や花瓶などを描く静物写生、外に出て風景などを描く風景写生。

とにかく見たままを描きなさい、と先生に言われたものです。

中学のときの美術の静物写生で「赤いリンゴ」を描くという授業があって、私は必死で赤や黄色の絵の具を使って、なるべく写真のように書こうと努力したものです。

その時、美術が大好きな同級生が書いたのはすべて緑色の絵の具で仕上げたリンゴでした。

背景から、リンゴが置かれた皿、リンゴ本体まで、全て緑。

濃淡がつけられたその絵はめちゃめちゃ迫力があり、とてもすごいものでした。

まぁ、美術の先生には褒めてはもらえなかったと記憶していますが。

自らの感性と視点で描いた世界。ひとつの視点へのこだわりを排除した表現法。

 

そんな風に絵画の世界というのは、その描き手によって独特な世界観や表現方法が存在しています。

彼にはリンゴは緑に見えたし、緑で表現したかったのだと思います。

美術の先生が褒めなかったのは、それが写生の授業だったからでしょう。

遠近法を使い、自らの目に映ったそのままの三次元のリンゴを二次元に落とし込めていなかったからに他なりません。

写生では独自の感性よりも、写実に重きを置かれるからですね。

逆に、そんな感性に重きを置いた独特な表現方法に、ちょっと耳慣れない言葉ですが「多視点描画」というがあります。

代表的な画家はポール・セザンヌやパブロ・ピカソ。

抽象画の巨匠ピカソと印象派の巨匠セザンヌです。

共通点は見当たらないように思えるのですが、実はその表現方法に似通ったものがあります。

それが多視点という表現方法です。

写生というのは、見たままの遠近や色などをなるべく現実に近いように表現します。

この見たままというのが「視点」です。

人間の視点というのは一つです。

まっすぐ見る、下から見上げる、上から見下ろすなど、一つの視点では一つの見え方になります。

なので、先ほどの遠近法に話を戻すと、まっすぐ前を見ている状態では視点は遠くの1箇所に収束し、周りの風景や物もその一点に向かって収束していくというのが自然な構図になります。

多視点描法というのは、一枚の絵の中に一方向からだけの視点ではなく様々な視点からの構図を集合させた描き方なのです。

では実際にどういうものなの?どこで見られるの?

ピカソ・「泣く女」 プリキャンバス複製画・ 額付き(デッサン額/大衣サイズ) 

わかりにくいと思いますが、ピカソを例に挙げると、代表作でもある「泣く女」という作品があります。

カラフルで美しい作品ですが、そこに描かれた女性の顔は横顔です。

そこに両目がこちらを向いて涙を流しています。

おわかりですか?

顔を見ているのは女性の横からの視点、目を見ているのは女性の正面からの視点に、つまり二つの構図からなっているというわけです。

 

もう一つ、セザンヌの代表作「リンゴのある静物」もこの多視点描法の最たるものと言われている作品です。

私のような美術に疎い人間は、一見すると、布の上にのせられた果物と壺と瓶を描いた写実的な作品にも見えてしまいます。

しかし、よく見てみるとそれが現実的にはありえない状態であることに気づきます。

まず、左側の瓶と二つの壺を見てください。

一番左の緑の壺と隣の壺は見下ろす視点で描かれていますが、それぞれ視点の角度が違っています。

また、その奥の瓶に関しては、正面からの視点によって描かれたものになっているのです。

それを知ってから見ると、静物写生としか思えなかったこの作品が、とても不思議な雰囲気をもったものとして見えてくるはずです。

 

セザンヌやピカソは、他にもこういった多視点描法を使うことが多かったので、これから彼らの作品を鑑賞するときは、そのへんに注意して鑑賞するのも楽しみのひとつになりますね。

多視点描法は身近にも。ほら、すぐそこで描いていますよ。

ピカソやセザンヌといった絵画の巨匠の話をしましたが、多視点描法というのは身近ですぐ見られるものです。

お子さんのいる家庭ではいつも見られていると思います。

うちもそうでした。

お子さんはよく動物の絵を描くと思います、たとえば犬とか猫、鳥の絵。

だいたいの場合、耳と目は必ず正面を向いていますね。

正面からの視点で描かれた構図です。

では鼻とかクチバシはどうでしょう。

正面を向いた顔の真ん中に描く場合もあるでしょうが、顔のわきにちょんとついていることはありませんか?

その構図は真横からの視点になるのです。

つまり、視点の混在、多視点描法です。

彼らは知らず知らずの間に巨匠と同じ多視点描法を使っているのです。

おもしろいですね。

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