私はひねくれている。
話題作は話題が過ぎ去ったあとで読む。この本が話題をさらっていた当時は私は書店員であり、この本を読むことも仕事の一つだったと言えばそうなのだが、頑固な私は話題作、芥川賞受賞、という文字に見向きもしなかった。
あれから何年か経ち、ここで紹介する本を新たに読もう・・・何を読み何について語ろうか・・・と、悩みつつ図書館へ足を運んで手にとったのが、この本だった。
コンビニ人間/村田沙耶香
スポンサーリンク
自分にとっての普通の概念が覆される
え?残りまだまだあるのにこの展開?と思っていたら、残り5ページ。ものすごく集中して読んでしまい、今まで読んだ本の中で圧倒的な速さでの読了だったと思う。芥川賞受賞作の本は、基本的に読みにくく学の無い私には難解な本が多かったが、この本は、芥川賞受賞作?!という驚きと、芥川賞受賞作うんそうだろうね、という納得する気持ちが入混ざる本だった。
36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。
これまで彼氏なし。オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。(あらすじ引用)
どうして女だからと言って結婚をしないといけないのか、どうして正社員にならないといけないのか、何故何年もアルバイトをしていると不思議に思われるのか、何故。
その何故を抱えながら、大変生きにくい日々を送る主人公。周りはとにかく心配をし、誰か良い人紹介しようか?などと言ってくる。親や妹までも、自分を病人扱い。自分を「普通」と思って疑わない人たちが主人公を糾弾していく。その様子は、少しムカつきもするし、誰がどう生きようと勝手だろう、と思う反面、この主人公と全く同じ人が私の友人としていたら、私は、何も不思議に思わずそのままを受け止められるのだろうかとも思った。
自然の流れというものがある。私が生まれてきて、気がついたら私は私で、女の人はやがて結婚をし、男の人は働いて、子供をもうけて、家を買うなり建てたりとかして、その子供はやがて大きくなって、結婚して・・・。それの繰り返しが、この世に生を受けたときから始まっているのが世の中。世の中には、そういうことに何の疑問も抱かずに、ただみんながそうしているから(とも思わず)当たり前のように結婚をして、当たり前のように子供をつくる。
そういった行いを当たり前にしている人口が多いからなのか、いや、動物として子孫繁栄のために生を受けたからなのかは分からないが、その流れに反する者を糾弾とは言わずとも皆変わり者だの言う。いくら世が変わりつつあるとは言え、やっぱり女は結婚、男は仕事を求められる。それに疲れた主人公は、男を家に住まわせることにするが、そこでも問題は発生する。
今度はその経緯を根掘り葉掘り聞かれることになる。本を読んでいて、ああこんなに愛だの恋だのっていうのは滑稽なものなんだな、と、気持ち悪くすら思えた。甘いお菓子にむらがるアリのよう。だがもっと離れたところで見れば、自分の存在もアリなのだと気づかされる。悔しいくらいに分かる気持ちと、お前も同じだろって突き放される感覚が自分でも分かるくらいに人間臭かった。
コンビニ店員としてのアイデンティティを得る主人公だけど、人間は結局、自分の置き場を探して彷徨う者なのかもしれないと思った。人と違うことが怖い。みんながしているようにして、望まれる自分を追いかける。確かに、自分もそうだ。結局は人と違うことが怖いのだ。どうやったら「普通」になれるのか悩み、泣いたこともあるが、「普通」になりたいと思っているうちは「普通」になんて到底なれないと知る。
何を普通と言うかは分からないが、多くの人間が当たり前として過ごす日々を生きる人を指してみる。その普通の彼らは、普通じゃない人を目の当たりにしたときに、ものすごい巨大なパワーを持って突進する。どうして?なんで?という言葉の刃を持って。クソだなと思う自分と、彼らを羨む自分がいる。何故なら、その行動こそが、私が思う「普通」であり、「人間」らしさだったりするから。
コンビニ人間とは
コンビニというのは誰にでも近い距離にある。だからこそ、私は誰にでも出来る仕事とは思えない。時給も割に合っていないとも思う。
コンビニで働く人がいるから、私たちはコンビニに行けるわけだが、まるで人間ではない機械のように店員を扱う者は少なくない。私もかつてコンビニ店員だったから、分かる。
どの仕事にも言えるかもしれないが、慣れてくると夢にまで見たりする。いらっしゃいませの声につられそうになったり、有線で流れる曲が耳から離れなかったり。この本を読んでいると当時のことが思い出された。私にとっては懐かしく、微笑ましいコンビニ店員あるある。
主人公は、コンビニで長く働くあまりコンビニでしか生きていけないと思い込むようになるが、今やもうみんなコンビニに頼りきっている節があるし、少なくても日本人の多くはコンビニ人間と言っても過言では無い。働いている者も、客でさえも。あの空間を当たり前に共有し、毎日を生きているのだから。
この本の終着点は、予想出来るもの、というか、そこに落ち着かなきゃおかしいよねってくらい腑に落ちたものだった。とくに予想を裏切られもせず、誰も死にもせず、穏やかといえば穏やか・・・な一冊だけど、もう少し早く読んでても良かったかな、と思ってしまった。ああ、やはり売れるものには理由があるのだな、賞をとれるくらいだもんな、と自分の頑固さに反省。あの当時では、コンビニ人間がどうのと、周りの書店員仲間は話していたし、お客様も話していたりしたのに。ああ・・・当時に戻って会話に混ざりたい。
私は、話題作を話題沸騰中に購入し、読むことをこの本から学んだのであった。

コメント
コメントはありません。