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角田光代『坂の途中の家』を読んで虐待と裁判員制度について思ったこと

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角田光代『坂の途中の家』を読んで虐待と裁判員制度について思ったこと

突然ですが、皆様、虐待ってどう思いますか??

自分とは関係の無い遠いところの問題と考えてる方も、あの時してしまったこと、言ってしまったことが思い当たる方も、いるのではないでしょうか

子供を育てているのは、貴方だけではありません!! それは、他の人々も親なんだから、という意味ではありませんよ。

貴方は、その子供の親かもしれないけど、貴方を取り囲む周りだって貴方の子供の育成に関わりが無いはずがないのです。

例えば電車の中で、自分の子に注意してくれたあの人も、貴方が子育てに悩む時に深く話を聞いてくれた友人も、今まさに悩んでいる貴方が読んでいるこの記事を書いた私も、微力ながら、貴方のお子さんを育てている力になるはずなのです。

 

虐待をした母親が悪いなんてことはないんです。誰だって虐待をする可能性がある。

違うのは支えてくれる人だったり、音楽だったり、モノだったり、何かがあるということ。

おっと・・・熱く語ってしまった。

親子のありかたに悩む方や、自分と重ねた物語を読みたい方必見の小説を今日は紹介しようと思います。

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今私が勧めたい一冊は「坂の途中の家/角田光代」

虐待事件の補充裁判員になった主人公の里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、彼女の境遇に自らを重ねていく。 —————私は、果たして、文香を愛しているんだろうか。もちろん愛していると思っている。いなくなったらと考えただけで胸がふさがる思いがする。(略)それでも、文香を自分より大切なものと思えるだろうか。かわいい、かけがえのない子どもと思えるだろうか。(本文より)

正直、読んでいて辛い、苦しい。勿論、面白い。あっぱれ!!と言いたくなるほど。

角田光代というと「八日目の蝉」が映画も原作もヒットし、井上真央と永作博美が演じたあの映画を思い浮かぶ方もいるのではないでしょうか。あの重さと、あの感動を、この作品は軽く超えてきます。

だって、角田光代に拍手したくなるほど、面白いんだから。でも、「いい母親」像を追い求めがちな日本人女性は、確実に自分と重ねてしまうだろうと思う。私もそうだった。

なのに、ページをめくる指は止まらない。私はどうなってしまうのかと。本作の主人公は、幼児虐待死事件の犯人とされる母に自分を重ねる、そして私は、その主人公に自分を重ねる。

だって考えて欲しい、自分も子供に翻弄される毎日を送っていた矢先、そばで幼児虐待死事件が起こり、その事件の裁判員に選ばれる。虐待するなんて有り得ないと思いつつ、自分にも似たところがあるのではないか??と、

そりゃあ、思うだろーーーーーーー!!

重ねずにはいられない。子を持ってなくても。そもそも・・・裁判員制度に選ばれたら、え??こんなに大変なわけ??と驚いた驚いた。

裁判員に選ばれたら・・・。

・拒否ができない

働いている人は、是が非でも休めないというわけではないが、よほどの理由がない限りは参加を求められる。ただし、二度目に選ばれた場合、拒否する権利が発生する。

・議論をしなければならない

これは苦手な方は本当に苦手だとされる。裁判の中で初めて聞く内容を素早くメモしてまとめ、議論し、真実を見抜くという頭に負担が物凄くかかる作業。

・守秘義務がある

これが発動しちゃうので、基本的には自分で考え自分で事件を抱えないといけない。人によっては、これが物凄くストレスになり、裁判員になったことにより精神疾患を患ってしまう方も。ただし、裁判は傍聴している方もいるので結果について話すことはオーケー。誰がこう言った、何故判決がこうなったといった細かい経緯はNGとされる。

この小説を読みながら、自分が選ばれたらどうなるかな・・・と考えてしまう。有り得ない話では無い。沖縄の事件を東京の人がやるというのは無いだろうけど、関東圏は一緒みたいなので関係がなく、自分が選ばれる可能性がある。遠方から来る人は、ホテル代が支給されるというが、どの程度かは未知数。日当が、だいたい一万円以下で出るが、いろんな心情や、見たくないものを見るハメになったり、ということを考えると割に合わない気もする。

経験として、滅多にできるもんじゃないし、という思いは、この小説を読むと揺らぐ。心も身体も、余裕が本当に無くなってしまうのではないか、と。

これは選ばれた事件が、自分と重ねやすい事件や境遇だから尚更なのだろうけども。

これを読んでる皆さんなら、進んで裁判員になりたいと思いますか??

子育ての閉塞感・・・。

子育ての閉塞感や、テレビニュースで見る虐待事件に何とも言えない、言葉にならないような想い、もやもやした何かが、この小説を読んで納得できるような、よくわからないところを整理してもらったような気になる。

多くの人がこの本を手に取り自分と重ねるだろうと思う。決して、「ねえねえ、面白いから絶対読んでみてよぉ」なんて本では無いが、他人との関係の危うさや脆さの表現が光り、貴方だけじゃないからね、と肩を叩かれるような感覚は、救われる人も少なくないはず。

ものすごく引き込まれる膨大なエネルギーの塊のようなこの本は、読了後疲れてしまう方も多いかもしれないが、確実に何かが心に残り、その残ったものはいつまでも消えない確かな何かに変わると思う。

私個人の思い

人間はどうしても、死や事件や諍いを、自分とは遠く離れたものだと思ってしまう。テレビニュースで観る凶悪事件は、本当に自分とは無関係なのだろうか。自分が犯罪者にならないのは、ほんの少しの偶然なのではないか。いつ自分が、テレビニュースに扱われてもおかしくないのではないか。

加害者になる可能性、被害者になる可能性を皆、同じくらい持っていて、自分の微力な力でもしかしたら、それを救えるかもしれない。

連日ニュースを観て、事件に関する本や手記を読んで思うのは、人は一つの塊みたいなものだということ。気がつきにくいが、みんな何かしらで繋がっていたりする。

だから、親子の在り方だったり、子育てだったりに悩む人のことも他人事では勿論ないし、どうにか身体を軽くしてもらいたいと願う。

忙しい日々に、本を開くのは難しいことだと思うが、本を開いて旅する世界は目に見えないからこそ、素晴らしく、かけがえのないものだと私は皆に広めたい。

坂の途中の家を読み終わった方、読んだ方にオススメの本

晴天の迷いクジラ 窪美澄


「死ぬなよ」という言葉を言うのは簡単なようで、とても難しい。そして、難しいようで、とても簡単。私たちは周りによって追い詰められ、そして、生かされている。読了後、ありがとう、とつい見えない誰かに言ってしまいそうになる感動作。

at Home 本多孝好


心温まる家族の物語。名言も多く、四つの短編からなる物語なので読みやすい。読書初心者にオススメできる一冊。

天国はまだ遠く 瀬尾まいこ


ゆったり流れる時間の中で、自然に包み込まれ心が生き返っていく様子が丁寧に描かれている。もう誰ひとり自分のことなんか知らない街へ!と思うほど自暴自棄になることって、ない?一人旅に出よう、そう思ったときに持っていく本はコレできまり。

凍りのくじら 辻村深月


すべての章が、ドラえもんの道具からなる小説。人間ひとつは、必ずドラえもんの道具を持っているらしい。ラストは圧巻。ここまで泣いた本、私は見つけられない。

chiyoda

書くこと、読むこと、そして考えることを、こよなく愛しております。

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